「なんでカーテン?」
夏彦が聞くと、冬子は肩をすくめた。
16:胡桃染
「絵が」
「エガ?」
「絵が描きたくて」
「へぇ」
「カーテンに」
冬子はすくめた肩のまま購入していた布用の絵の具を取り出した。
「外から窓が見える家って多いけど、なんかどこも殺風景だなって思ってて。お部屋の中のカーテンの柄はよりどりみどりだけど、外から見て目立つカーテンて見かけないなと思って」
「なるほど、俺にその発想はなかった。ーで、」
出来上がった作品は荒れ狂う嵐と狂雲、逃げ惑う人々、カーテンの地である胡桃染の地味な色合いは確かに隠れていた。
「…で、なんで俺の部屋のカーテン?」
「弟のなら良いかなって」
「良くねぇよ!」
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その後、カーテンは明るい裏地のものに買い替えたとかそうじゃないとか。
描いたカーテン絵は姉の部屋の壁に飾られたとかそうじゃないとか。
おそまつ